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四国おへんろ対談

2016年逆打ちの年におこなったインタビュー記事を再掲載いたします

四国遍路日本遺産認定記念事業担当者
/四国霊場八十六番札所・志度寺副住職
十河 瑞澄さん

うるう年の今年を、四国遍路を始める大きなきっかけに。

船本
本日はお遍路について、お話をお聞きできるのを楽しみにしておりました。さっそくお話をお伺いしてもよろしいですか?
十河
はい、何なりと。
船本
今年(2016年)は、閏年(うるう年)ということで、逆打ちの年といわれていますが、そもそも閏年に逆打ちをする理由はどういうものなのでしょうか。
十河
昔から、閏年には八十八番から逆に回るという慣習はあるのですが、それは決まりごとというより、閏年に逆打ちをしたことでお大師様に会えたという故事に由来するものです。その故事にあやかり、お大師様に会いたいと願う人たちが、逆打ちをはじめ、それが広がっていったのではないかと思いますね。
船本
それは、どのような故事ですか?
十河
古い言い伝えなのですが、昔、衛門三郎という者がいました。ご存じですか?
船本
衛門三郎というと、四国遍路の祖ともいわれる方ですね。
十河
そうです。お遍路のはじまりともいわれる故事で、もともとお大師様にお会いになる前の衛門三郎は強欲で非道だったといわれています。
船本
強欲で非道。自分はそうでないとは思いつつも、ハッとさせられる言葉ですね。
十河
そう思える人は健全ですよ。 さまざまなところで名前をきくであろう衛門三郎の故事ですが、逆打ちについても、その衛門三郎の故事に由来するのです。 ご存じのとおり、衛門三郎は、托鉢にきた僧、実は弘法大師様なのですが、その僧をひどい方法で追い払ってしまいます。その後、子どもを次々と亡くし、あの時追い払ったのがお大師様であったことに気づきます。衛門三郎は、自分のしたことへの後悔と懺悔の念からお大師様を追いかけて四国をお参りするのですが、なかなか会うことができない。どんなに進んでも会えないので、立ち止まって考えておりました。そして、後ろをふと振り返ると、お大師様がそこに立ってらっしゃったのです。
船本
確か、前を歩かれているはずのお大師様に追いつこうとして四国を何度もまわったのですよね。
十河
そうです。後ろを振り返り、衛門三郎は気づきます。お大師様は自分の前を歩いておられたのではなく、いつも自分のことを後ろから見守ってくださっていたのだということに。それが閏年のできごとであったといわれます。そうした故事が、閏年に逆打ちでお参りすればお大師様にお会いできるという言い伝えにつながっていったのです。
船本
ということは、絶対に逆打ちでなければならない、という決まりがあるわけではなく、逆打ちすると、お大師様に会えるかもしれないという思いから、逆打ちという慣習が生まれたということでしょうか。
十河
はい、そうなんです。昔からもちろん閏年に逆打ちをされるお遍路さんはいらっしゃいましたが、圧倒的に逆打ちされる方の数が増えたと感じたのは、前々回、8年前でしょうか。4年前は8年前以上でしたので、閏年になるとかなり多くの方が逆打ちをされているといえますね。
志度寺は八十六番札所なので、例年秋にお参りされる方が多いのですが、閏年の今年は、年が明けてすぐに来て下さる方が多く、閏年=逆打ちということが深く浸透していると実感しています。
船本
はい、お問い合わせでも、やはり今年回っておきたいというお声は多くいただいております。閏年は4年に一度しかありませんから。
十河
故事から生まれた慣習をきっかけにお遍路を始めようと思っていただけるのは、嬉しいことですね。

記念散華の授与で、今年はさらにお遍路に魅力が。

船本
お遍路のきっかけといえば、四国八十八ヵ所霊場会でも、今年は特別な授与品があるとお聞きしました。
十河
ええ、四国遍路が日本遺産に認定されたことを記念して、今年(2016年)1月1日から2016年12月31日までの期間限定で、四国八十八か所の各お寺にて、記念散華を授与しております。
船本
色とりどりの美しい散華ですね。散華について、教えていただけますか?
十河
散華とは、蓮の花びらを模った色紙のことです。昔から、仏や菩薩をを迎える際には、歓迎と讃嘆の気持ちを表すために、華を降らしたということが言い伝えられています。華の芳香によって悪い鬼神などを退却させ、道場を清めて仏を迎える、という思いから生まれたもので、はるか昔は生花を使っていたようですが、いつの時代からか色紙になりました。
船本
一つひとつの散華に、それぞれのお寺の名前と梵字が入っているのですね。散華というものがそもそもたいへん有難いうえ、さらに期間限定の散華となるとさらに貴重でご利益を感じます。
十河
それぞれの散華を見て楽しんでいただけるように心がけてつくったのですよ。各お寺で色を違えたのもそのためです。
船本
これを、納経の際に授与していただけるということですか?
十河
はい、納経していただいた方に各お寺において授与させていただいております。最初から花びらの形にしておくと途中で紛失されてはいけませんので、花びらの形になるように切り込みを入れた四角いカード型にてお配りしているんですよ。それを切り取っていただいて、別途販売させていただいている台紙に貼っていただくと、ほら、このように大輪の華が完成いたします。
船本
確かに美しい!四国を巡り終えて、家に帰ってひとつずつ台紙に貼りながら、遍路の旅の道中を思い起こすのも素敵ですね。
十河
はい、そうしていただけると、私たちも嬉しいです。四国遍路とひとことでいいますが、長い旅です。
そのなかで、お寺を巡ること以外の時間、地元の方とのふれあいや美味しい食事、そういったことも含めてすべてを体感していただき、そこからなにかを感じていただくのが、四国遍路だと私たちは考えております。記念散華についても、いつまでも心に残るような、なにかの証を授与させていただけないかという思いから生まれたのです。
船本
実際拝見すると、散華を目にするだけで、四国遍路を思い起こせ、心に残るであろうと、実感いたしますね。私たちのツアーにおいても、もちろんメインはお遍路で各お寺を回ることですが、それ以外の時間も楽しんでいただけるようにと配慮しております。
十河
それはとても大事なことですね。

四国に来ていただけることが何よりも嬉しい。

十河
団体で来られる方も、歩きやマイカーでまわられる方ももちろんいらっしゃいますが、タクシー利用の方も増えてらっしゃいますね。
船本
はい、おかげさまでご相談も増えております。歩きやマイカーではなかなか難しい、しかしバスでは団体行動に合わせる必要があるので心配、というお客様が数多くいらっしゃるというのが実感です。
十河
まわられる方のご都合をある程度、事前に聞いてくださるのでしょう?安心ですよね。小回りが利くのもいいような気がします。
船本
乗り合いの場合はすべてのご要望にお応えすることはできませんが、それでも運転手が密接に関われる分、はじめてまわられる方でもご不安が少ないように感じます。
そういえば、ご相談に多いのが、初めてなのでどうやってまわればいいか、なにを揃えていいかわからないという声をよくお聞きします。副住職、どのようにアドバイスするのがよろしいと思われますか?
十河
そういった質問は私のところにも多いです。私は常々申し上げているんですが、皆さんにはあまりお遍路において「こうしなければならない」ということにとらわれすぎないでいただきたいんです。
もちろん、どのようにお参りするかという作法は大切ですが、それ以外の例えば装束などについては、あまり「これ全てやらないと」と思われなくてもいいように思うんです。お参りの作法についても、少しずつ習得すればよろしいかと。御社では、そのあたりもサポートしていただけるんですよね。
船本
はい、私どものツアーにおいては、運転手がお参りの方法なども含めてお寺に付き添うようになっていますので、不明な点は何でも聞いていただければ大丈夫です。
十河
それは心強いですね。どのようなお問い合わせがありますか?
船本
やはり今年は、逆打ちでまわりたいのだけれど、どうすれば?いうお客様がほとんどです。閏年の今年のうちにお遍路を回りたい、というお問い合わせは増えているように思います。
ところで、副住職。閏年の逆打ちには3倍のご利益があるといわれますが…。
十河
3倍のご利益があるというのは、皆さん、それだけ強い思いを持って、閏年に四国遍路をしているからということではないでしょうか。強い思いを持っているからこそ、「閏年に逆打ちを」と考えるともいえます。願いが強ければ強いほど、やはりその願いが届くものですから。
船本
船本 なるほど…。深いですね。
十河
いえいえ、それほど難しいことではありません。たとえば、順打ちにまわれば、徳島を冬に出発し、高知、愛媛と回って、香川に入るのは秋です。しかし、逆打ちであれば、冬。お遍路しながら、見る景色も、順打ちと逆打ちでは違って見えるんですね。
もう少し簡単にいいますと、順打ちでまわられ、その季節ごとに地元のものを召し上がっていたとします。そうすると、 香川に来られた際には秋の味覚しか堪能されていないのです。ですが、冬に香川を出発しますと、志度の牡蠣がとても美味しい、ということに気づいていただける。単純なようですが、それも、ご利益なのです。
船本
確かに見える景色、食べるもの、それによって、感じることは異なってきますね。
十河
そうでしょう?私たちは、お寺ですから、もちろん四国遍路をまわっていただく、四国遍路にぜひ来ていただきたいという際に、お寺のことを中心にお伝えしますが、四国遍路をきっかけに、四国を訪れてくれるということが何より嬉しいんです。
もちろん寺をまわることで、さまざまなことに気づき、重荷を下ろしていくお手伝いにはなりますが、旅の途中で、出会った人たちとのかかわりがなければ、わざわざ四国まで出向いても、ここまで心に残る旅にはならないと思うんです。
美しい景色に出会い、美味しいものに出会い、そして、そこの街の人に出会って、お接待を受け、温かい心にふれる。そういうことこそ、四国のよさ。四国遍路をきっかけにして、多くの人たちが今年、また四国を訪れてくれたら、私たちは何より幸せです。
船本
我々も、そのお手伝いができるようにサポートいたします。副住職、今日は良いお話を本当にありがとうございました。
十河
こちらこそ、ありがとうございました。
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