四国おへんろ.netについて

四国おへんろ対談

2016年逆打ちの年におこなったインタビュー記事を再掲載いたします

おへんろ.netタクシー 徳野泰成さん・新田準一さん

ご案内を20年近くしていてもまだまだ覚えることばかりです。

船本
いつもお客様をご案内しているタクシー運転手のなかでもベテランのおふたりにお越しいただきましたが、おふたりは四国遍路のご案内役になってどれくらいになるんでしたっけ?
徳野
タクシーの運転手歴は20数年で、お遍路されるお客様をご案内するようになって、17.18年になります。
新田
私も同じくらいの期間、ご案内しています。ただ、回れば回るほど学ぶことが多く、お遍路というものの奥深さを感じますので、まだまだ勉強しなければと思っています。
徳野
確かに何年回っても覚えることばかりですね。
船本
私はフロントでお客様をご案内していますが、実際にお客様と一緒に回るのは、タクシー運転手ですからね。おふたりをはじめ、運転手さんがしっかりとご案内してくれるので、安心しています。実際に、お客様をご案内する際、どのような流れでご案内しているかお話しいただけますか?
新田
お遍路は覚えることがたくさんありますから、慣れない初日はお堂までご案内してお経のあげ方などの作法をお伝えしています。2日目からはお客様がお経をあげられている間に納経所のほうで、納経帳を書いていただく手配などをして、スムーズに回れるようにサポートしています。
徳野
初日は、船本さんが同行して納経所に行ってくれるので、ずっとお客様に付いてさしあげられます。ご案内する初日は、お客様もまだお遍路に慣れていませんし、初めての場合は不安も大きいと思うので、船本さんが現場にきてくれるのは、お客様にとっても私たちにとっても心強いですね。
船本
お遍路が初めてのお客様がほとんどですので、2日目、3日目もまだなかなか慣れませんよね。その場合も運転手さんが先達さんであり、お遍路のことをしっかりとお伝えしようということで常に学んでいるのは、お客様にとっては本当に安心だと思いますよ。
新田
やはり間違ったことをお伝えするわけにはいきませんから、常に勉強です。しかし、それで喜んでくださるのは、本当に嬉しいことです。

タクシーでご案内するメリットを感じていただくために。

船本
タクシーを降りてからお寺まで、ずっとお客様に同行してご案内することも、お客様の安心につながっていますよね。
新田
普通の観光ですとそこまで気をつけることはないんでしょうが、お寺は急な階段や坂道も多く、歩きにくい箇所なども多いものです。足もとに注意しながら歩いていただけるように危険だと思うところはゆっくり歩いていただき、少しの段差であっても注意を促すなどしています。
徳野
お客様には「焦ってもいいですが、焦りすぎてはだめですよ」というようにしています。特にご高齢の方の場合、ほかの人に迷惑をかけたくないと、無理な速度で歩かれて、足もとまで行き届かないということもありますので。
船本
大型のバスなどで回るよりは少人数で回るので、自分のペースで回りやすいとはいえ、やはりグループで行動しますので、歩く速度ひとつとっても完璧に揃うことはありませんよね。そこを運転手さんが細かに配慮することで、安全に安心して回ってもらえればと思います。
徳野
長い時には10日以上にもなるツアーですから、やはりアクシデントはつきものです。もちろん、ケガをすることなどないように細心のケアをしていますが、なにかあればすぐに船本さんに連絡して、サポートするようにしています。
新田
山のなかの札所などは、どうしても自然のなかですから、蜂や蛇などの被害にあう危険もあります。細心の注意を払って、とにかく安全にということを心がけています。
徳野
といっても、あまり注意しすぎるとそういうことばかりに意識がいって、本来の目的であるお遍路に集中できなくなります。それでは申し訳ないですから、見ていないようにして常に大丈夫かどうか見ている、さりげなくご案内する、ということはしていますね。
船本
私たちは、そういう心遣いのできる新田さんや徳野さんのような先達ドライバーの方々に、案内役としてお願いしています。
それがお客様の信頼だと思っています。はじめていらっしゃるお客様が多いわけですから、お遍路について、作法についてきちんと知っているのはもちろんですが、安全面への配慮や、ちょっとした心遣いのできる運転手さんをでないと!
そこが疎かになったり、理解できない方だとお願いできないんですよ。
新田
それでも万が一のことがあるのも、ツアーです。なにかあった時には船本さんが対応してくれるということは、お客様も安心でしょうし、現場でお客様に接する私たちの安心感にもなっています。
船本
全部のツアーに同行することはできないですが、その分、ご案内役である運転手さんにも安心してお客様をおもてなししてもらえるようにするのが、私の役目ですから。

札所だけでなく周辺の食事処なども頭に入れています。

船本
おふたりはタクシー運転手としてお遍路の案内をずっとされているから、札所の混みあう時間などもよく把握されていますよね。
徳野
そうですね。団体ツアーなどはだいたい1日に回る札所の数が決まっていますから、朝から夕方までで、どの時間帯がどの札所に大勢のお遍路さんが集まるかというのは、把握できています。タクシーの場合は、大型バスなどと違い、ルートなども選択できますので、たとえば同じくらいの距離にある札所があれば、先にこちらをまわってから戻りますか?というふうにして、できるだけスムーズに回れるようには考えていますね。
新田
どうしても順番通りにという場合には、どの札所がどれくらい混みあうかというようなことも先にお伝えするようにしますし、どこかの札所で団体のお遍路さんと会った場合には、ちょっと先回りできるような道を選ぶようにして、次の札所では、その団体より先に到着するようにするなどはしています。
船本
宿泊する場所と食事などは事前に決まっていますが、お昼などはどうしていますか?
徳野
札所周辺のお店は数軒ずつ頭に入っていますので、その日のお客様のご要望に合わせてご提案しています。昼食の時間についても、ここで食事をとっておくと効率よく回れるなと思えるタイミングでご案内していますね。あとは、ちょっと遠いけれどどうしても、これを食べてみたい、というようなご要望も、可能な限りはお聞きしています。
新田
それはツアーといっても少人数だからこそできることですね。会話のなかでどんな料理が好きか、どこで何を食べたいかなどもお聞きするようにしています。そして、その周辺の美味しいものや珍しいものなど、ご案内するようにしています。お遍路が目的といっても、やはり旅ですから、食や宿は楽しんでいただきたいですからね。
船本
お遍路は、札所をまわることだけでなく、四国のさまざまなものに触れ、人に逢って、そのなかで感じていただくことも多い旅です。それをサポートしてくれる運転手さんによって、本当にいい旅になるかどうかも変わりますから。
徳野
責任重大ですね!
新田
それだからこそ、やりがいがあります。

お客様に喜んでいただけることが、心をこめてご案内する原動力に。

船本
最後に、この仕事を通じて、これまでたくさんのお客様に出会われたと思いますが、特に印象に残ったことなど、教えてもらえますか?
徳野
ずっと遍路に出たかったけれど、今まで来られなかった、というご高齢の女性のお客様をご案内した時、旅も終盤になってうちとけてくださったのか、来られなかった理由をお話ししてくださったんです。行きたいと思っていたらお姑さんの介護が始まり、見送ったあとに今度こそ行こうと思ったタイミングで、ご主人が亡くなられて機会を逸してしまったと。その方が、結願寺で涙を流してお礼をいってくださった姿を見た時には、ああ、この仕事をしていてよかった、と思いました。
新田
旦那さんを亡されてお遍路に出たというまだ若い女性の方をご案内したことがありました。元気いっぱいでいつも冗談を言って周囲を和ませてくださるような明るい方だったのですが、その方が最後は号泣されて。ずっと気を張ってらしたんだろうと思うと、こちらまで胸が熱くなりましたね。
徳野
少人数のツアーとはいえ、やはりお気遣いをされる方が多いんですよね。ツアーの最中はそういった姿は見せないようにされて、最後になって想いを吐きだされるようなお話を聞くというのは多いですね。
船本
いい意味で張りつめていた気持ちが溶きほぐされていくんでしょうね。それを聞いて、受けとめてくれるという運転手さんとの信頼があってこそ、心のうちを話せるようになるのだと思います。
徳野
長い時間、ご一緒させていただくので、いろんなお話をお聞きするんです。ツアーにおいては、私たちが案内役ですが、人生においては大先輩のお客様が多く、私もツアーに出るたびに、いろんなことを学ばせていただいています。
新田
いろんな思いを持って参加されるお客様がいらっしゃるので、その思いに沿うように、お邪魔にはならないように、と思っています。
船本
ご家族の方から、マイカーや団体バスのツアーでは年齢的に心配だったけれど、タクシーでご案内いただくなら安心、とお申込みいただくことも増えてきました。ご本人やご家族から、また新田さんや徳野さんにお願いしたいという声もいただくんですよ。
徳野
それは本当にありがたいことですね。私たちは、自分たちにできる最大のおもてなしをするだけですが、一緒に回ってくれてよかったと次もお声をかけてくださると、やっていてよかったと心から感じられます。
新田
また来たよ、といってくださるお客様や家族が安心して送り出してくださったというお話を聞くと、ますますご期待に応えるご案内をしなければと身が引き締まります。でも、だからこそ、一生懸命ご案内できるのだと思います。
船本
これからも、お客様に安心してお遍路の旅をしていただけるように、おふたりともよろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。
四国おへんろ対談
四国遍路日本遺産認定記念事業担当者/
四国霊場八十六番札所・志度寺副住職

十河 瑞澄さん